特集:電源用半導体技術
ロームの産業機器向けDC/DCコンバータIC

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ロームの産業機器向けDC/DCコンバータIC

はじめに

産業機器向けデバイスに求められる事項として高信頼性や長期供給があるが、近年は民生機器同様、小型化へのニーズも高まっている。電源回路を小型化すれば機器本体の体積や設置面積の削減を図ることができる。
一方で、電源ユニットを小型化すると筐体の温度が上昇するため周辺部品の信頼性が低下する。これを回避するにはDC/DCコンバータICの電力損失を減らして発熱量を減らす必要がある。
ロームの最新DC/DCコンバータICでは、高周波スイッチング動作による周辺部品の小型化、同期整流方式による損失の低減と、大電流低損失プロセスによる発熱量の軽減、この3つの手法で電源の小型化を実現している。

高周波スイッチング動作による周辺部品の小型化

ロームのBD9E300EFJ-LBは40V耐圧入力を備えた1chの同期整流降圧DC/DCコンバータで、スイッチ用のパワーMOSFETが内蔵されている。パワーMOSFETは上側下側ともにNch-MOSFETを採用することで高効率化を図っている。この構成に関して、上側Nch-MOSFETのゲートドライブを生成するブートストラップに必要なダイオードも内蔵している。図1の回路例からも部品点数が少ないことがわかる。

図1. BD9E300EFJ アプリケーション回路例
図1. BD9E300EFJ アプリケーション回路例

また、BD9E300EFJ-LBは、高耐圧電源アプリケーションに使用されることが多い非同期整流(ダイオード整流)方式ではなく、MOSFET内蔵の同期整流方式を採用している。そのため、外付けトランジスタや整流ダイオードが不要となり実装面積を50%削減することができた。(図2)

図2. 非同期整流方式と同期整流方式の実装面積比
図2. 非同期整流方式と同期整流方式の実装面積比

さらに、スイッチング動作を1MHzと高速化することで小型のインダクタとコンデンサが使用できる。その原理は次の通りである。

1)インダクタの小型化

通常、インダクタを小型化するためには、インダクタンス値を小さくする必要があるが、これによりインダクタ電流のリップルが大きくなり出力に大きなコンデンサが必要になる。(図3)

図3. インダクタンス値と出力コンデンサ値はトレードオフの関係
図3. インダクタンス値と出力コンデンサ値はトレードオフの関係

しかし、スイッチング周波数を高くすることで、三角波の傾斜を変えないままリップル電流を小さくできる。
例えば周波数を2倍にするとリップル電流は1/2になる。それに伴いインダクタンス値も1/2になるため、インダクタの小型化が実現できる。(図4)

図4. スイッチング周波数とリップル電流ΔILの関係
図4. スイッチング周波数とリップル電流ΔILの関係 

2)出力コンデンサの小型化

スイッチングレギュレータにおいて、スイッチノードとインダクタの間は矩形波で動作している。 インダクタと出力コンデンサで2次ローパスフィルタを構成し、これにより矩形波の高周波成分を減衰して、 出力電圧を平滑化することで直流電圧を得ている。(図5)

図5. ローパスフィルタでスイッチング周波数成分を減衰
図5. ローパスフィルタでスイッチング周波数成分を減衰 

通常このローパスフィルタのカットオフ周波数foは、スイッチング周波数の1/100程度に設定することでスイッチング周波数成分fswを十分に減衰させている。スイッチング周波数fswを高くすることでカットオフ周波数foも高くすることができるので、出力コンデンサの容量値を小さくでき、サイズも小型にすることが可能になる。
この理論からするとスイッチング周波数を高くするほど部品サイズは小さくなるが、次に別の課題が見えてくる。 スイッチング周波数が高くなるにつれ、スイッチMOSFETのスイッチング損失とゲート電荷損失が増加する点である。 これにより効率が低下して発熱が大きくなるため、電源の小型化にはマイナス要素となる。(図6)

図6. スイッチング周波数とトレードオフの項目
図6. スイッチング周波数とトレードオフの項目 

このように、スイッチング周波数とスイッチMOSFET損失はトレードオフの関係にあるが、BD9E300EFJ-LBでは最先端のBiCDMOSプロセスを採用し、 スイッチング周波数1MHzで設計することで、両者のバランスの最適化を図っている。

同期整流方式による損失の低減

従来24Vレール電源で主流であった非同期整流方式のICは、ハイサイドスイッチにMOSFET、 ローサイドスイッチにショットキーダイオードが使われる。(図7)

図7. 非同期整流方式の電流経路
図7. 非同期整流方式の電流経路

ハイサイドスイッチがON時は、入力電流がハイサイドスイッチからインダクタを介して負荷へ供給される。 同時にインダクタへ磁気エネルギーが、出力コンデンサへ電荷が蓄積される。 この時、MOSFETのオン抵抗と電流による損失(Pd=RON×I2)が発生する。
また、ハイサイドスイッチがOFF時は、インダクタへ蓄積された磁気エネルギーと、出力コンデンサへ蓄積された電荷が、 電流として放出される。電流は負荷からグラウンド、ショットキーダイオードを介して再びインダクタへ戻る。 この時、ショットキーダイオードの順方向電圧と電流による損失(Pd=VF×I)が発生する。
一方の同期整流方式では、ローサイドスイッチにもオン抵抗値が小さいMOSFETが使用されているため損失が小さくなる。(図8)

図8. 同期整流方式の電流経路
図8. 同期整流方式の電流経路 

例えば24V入力から12Vを出力する場合は、ハイサイドスイッチがONしている時間と、 ローサイドスイッチがONしている時間は共に50%である。
これが24V入力から5V出力になると、ハイサイドスイッチがONしている時間は20.8%、ローサイドスイッチがONしている時間は79.2%となり、 ローサイドスイッチの損失が支配的になる。
ローサイドスイッチに1Aの電流が流れたと仮定すると、非同期整流方式の場合、 ローサイドスイッチの損失はPd=VF×I=0.5V×1A=0.5Wとなる。一方同期整流方式の場合は、 Pd=RON×I2=0.14Ω×1A2=0.14Wとなり、非同期整流方式に比べ1/3.6の発熱になる。
このように24Vレール電源から5Vのように降圧比が大きい場合は、同期整流方式の方が損失が小さく低発熱になるため、 小型化には有利である。

大電流低損失プロセスによる発熱の軽減

BD9E300EFJ-LBは最先端の0.35μmルールの BiCDMOSプロセスで製造されている。 内蔵スイッチ部はNch-DMOS FETで構成されており、通常は高耐圧、低オン抵抗化と低容量ゲート化はトレードオフの関係にあるが、 40V耐圧、2.5A電流容量、170mΩ低オン抵抗化と、1MHz動作可能な低ゲート容量化を実現している。 これにより高周波スイッチング動作でも低発熱である。
またパッケージは裏面に放熱用パッド(エクスポーズドパッド)が露出している形状を採用し、 ICチップで発生した熱も効率よく基板へ放熱できるため、小型パッケージでも発熱の心配なく安心して使用することができる。

40V耐圧の省電力・省スペース電源ICシリーズ

ロームのBD9Eシリーズは、従来から産業機器での利用が多い非同期整流(ダイオード整流)方式の電源を代替えする 新世代のソリューションである。
BD9E300EFJ-LB / BD9E301EFJ-LBおよびBD9E100FJ-LB / BD9E101FJ-LBは40V耐圧入力を備えた1chの同期整流降圧DC/DCコンバータで、 スイッチ用パワートランジスタが内蔵されている。パワートランジスタはハイサイド、ローサイドともに Nch-MOSFETが採用され高効率化を図っている。この構成に関連して、ハイサイドNch-MOSFETのゲートドライブを生成するブートストラップに 必要なダイオードも内蔵されている。
4種類の主な違いとしては、BD9E300 / BD9E301は出力電流が2.5A、BD9E100 / BD9E101は1.0Aである点で、 より大きい電力を扱うBD9E300 / BD9E301には、熱対策としてオン抵抗がより低いMOSFETと、 裏面に放熱用パッドが露出している熱抵抗の小さいパッケージを採用している。
また、BD9E300BD9E100はスイッチング周波数を1MHzで設計している。
一方で、BD9E301BD9E101が570kHzとなっているのは、降圧比が高い場合に速いスイッチング周波数ではスイッチング損失が増加し 発熱を許容できなくなったり、最小オン時間を維持できなくなるためである。ソリューションサイズよりも効率重視の設計 (スイッチング周波数を低くするとスイッチング損失が減る)にしており、お客様の使用条件に適するスイッチング周波数を 選べるようになっている。

まとめ

あらゆる分野で省エネへの意識が高まっている中、大電力を扱う産業機器系のアプリケーションにおいても、省エネを実現する半導体で、大電力に対応可能なパワーデバイスや電源ICの採用が進んでいる。そして、大電力に対応する場合、雷などによる突発的なサージ電圧を受けても壊れないように入力電圧もより高い耐圧が求められる。
ロームでは、こうしたニーズに合わせて現在さらに高耐圧なICも開発中で、今後もこのDC/DCコンバータシリーズを拡充し、多様な市場に貢献する多彩なラインアップを揃えて行く。

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