特集:電源モジュールと電源用部品技術
自動車に最適な電源ICの最新技術

掲載記事

Contributing Articles

自動車に最適な電源ICの最新技術

車載電装化における電源ICへの要求事項

近年、自動車の電装化がますます進んでいる。自動車を取り巻く 〝ハイテク〟 な電子機器の搭載は進み、従来の機械制御が多くを占めていた時代からすると、電子制御・電動化された機器が占める割合は非常に多くなってきている。そしてその自動車の電装化という動きはこれからも堅調に推移することが予想される。
電装化の要因として、大きく3つのキーワードがある。
キーワードの1つ目は「環境」(eco)である。一般車両へのHV(ハイブリッド自動車)、EV(電気自動車)の普及は目覚ましいものがある。また自動車メーカー同士の低燃費化競争も激化している。これらは電子化された複雑で緻密な制御により実現しており、当然HV、EVの普及や燃費の性能向上に伴い、搭載される電子機器は増加していく。
2つ目のキーワードは「情報、快適」(comfort)である。自動車の本来の目的である移動手段としてだけではなく、好きな音楽をダウンロードして聴いたり、これから訪れる場所の情報をその道のりの間に得たりと、より日用品に近い存在として自動車のスマート化も進んでおり、これらを実現するための通信関連の電子部品も多く存在している。また快適性の向上に関しては、キーを持たずしてドアの開閉やエンジンスタートが可能なスマートキーが一般車のほとんどに普及してきているなど車室内をより居心地の良い空間にするための電子化も進んでいる。
最後のキーワードは自動車には欠かせない「安全」(satefy)である。長年、自動車の安全性は、これまで車載フレームの剛性強化や衝突時の衝撃吸収、乗員へのエアバック動作などの危機発生〝事後〟の対策によるものが多かった。しかし近年では電子機器性能の向上により、危機発生〝前〟の対策にフォーカスされ始めている。車載カメラや車載センサの精度、動作信頼性の向上により今や自動車の走行安全を実現する電子機器は1つの重要な分野として確立されてきており、これからも様々な機能の安全機器が開発、市場投入されていくだろう。
自動車向けの電源ICはほぼどの電子機器にも使用されており、これら3つのキーワードを実現するために「低暗電流」(待機電流が少ない)、「低電圧動作」、「小型、大電流」といった性能が要求されるようになってきている(図1)。

 

(図1)近年の電装化の背景とニーズ
(図1)近年の電装化の背景とニーズ

例えば、ロームでは、業界最高クラスの低暗電流6μAを達成した車載向けLDOシリーズ「BD7xxL2EFJ-C / BD7xxL5FP-C」や当社従来比1/100の低暗電流22μAを達成したDC/DCコンバータIC「BD99010 EFV-M / BD 99011EFV-M」を量産しており、好評を得ている。独自の回路設計により、暗電流を低減することに成功し、これにより自動車の低消費電力化に大きく貢献している。

高効率化とその代償

先ほども述べたが、HV、EVの普及や燃費の性能向上に伴い、搭載される電子機器は増加していく。これにより電子部品の高効率化は、燃費の性能向上にますます大きな影響を与えていくことになる。
なかでも電源ICは出力に接続されている電子部品すべての消費電流が流れることになるため、より高効率が求められる電子部品として位置づけられる。
この高効率化の要求を満たすためには電源ICのパルス制御(PWM:Pulse Width ModulationやPFM:Pulse Frequency Modulationなど)化が必須となってくるのだが、この制御方式には近傍の電子部品にノイズを伝搬させてしまうという欠点がある(図2)。

(図2)車載電源ICの種類と特長
(図2)車載電源ICの種類と特長

車載向けの電子部品がノイズで誤動作するということは、人命が危険に曝される可能性があるということになるので、いかなる時でも電子部品が正常に動作できるようにCISPR25(エミッション:ノイズを発生させる側の規格)やISO11452(イミュニティ:ノイズの影響を受ける側の規格)などノイズに関する様々な規格を遵守していく必要がある。
このように車載向けでは、他の機器に妨害を与えず(エミッション)、また他の機器から妨害を受けても本来の性能を維持すること(イミュニティ)が重要だ。
EMC(Electromagnetic Compatibility)はEMI(エミッション)とEMS(イミュニティ)、両方の性能を両立させる必要性から電磁両立性と呼ばれる。

プロセスの進化とその代償

ムーアの法則に従ってプロセスの微細化が進んできたが、以前ほどの顕著な進化は見られていない。
電源ICのような消費電力の大きいパワーICでは電力損失も大きい。その損失は熱となりICからPCBやパッケージを介して外気に放熱される(図3)。

(図3)パッケージ構造図(熱抵抗)
(図3)パッケージ構造図(熱抵抗)

車載のように使用時の周囲温度が高い環境下ではICの使用温度上限までの許容温度差が少なくなるため、その損失による温度上昇は極力抑えなければならない。そのためにチップの放熱特性(熱抵抗)を良く(低く)する必要がある。
熱抵抗はパッケージの材質、リードフレームの材質、チップとフレームを接合するダイボンディング材だけでなくフレームの形状やチップサイズによって大きく変化する。
ムーアの法則に従って極小化したチップサイズでは、熱抵抗が高くなり、従来と同じ電力を消費させてもチップの温度上昇が大きくなるということになる。
車載制御機器が電子制御・電動化されていくにつれ、プラットフォーム化という名のもとに電子部品のコモディティ化も当然進んでいく。ゆえに熱抵抗が高くなってでもチップサイズのスケールダウンも必須事項となってくる。
これらの問題を解決するためには制御機器としてのトータル熱設計を行い、ICとPCBでの熱抵抗のバランスが重要になってくる。

車載EMC対策事例

前述の通り車載向けの電子部品ではCISPR25(エミッション:ノイズを発生させる側の規格)やISO11452(イミュニティ:ノイズの影響を受ける側の規格)などノイズに関する様々な規格を遵守していく必要がある。
これらのノイズは伝達経路によって、直接配線を伝わる伝導ノイズと気中を伝搬する放射ノイズに分けて考えられる(図4,5)。

(図4)同一基板上でのノイズ伝達経路
(図4)同一基板上でのノイズ伝達経路

(図5)基板間および基板外部からのノイズ伝達経路
(図5)基板間および基板外部からのノイズ伝達経路

伝導ノイズ対策としては入力フィルタが非常に有効である。
Π型フィルタが基本形になるが、基準を満たせていない周波数帯域に合わせて、インピーダンスの低いバイパスコンデンサを追加で並列接続することで基準をクリアできるようになる。
こうしたノイズ対策を実現した例として、次にDC/DCコンバータIC「BD90640EFJ-C」をあげる。
図6の事例は、AM帯ノイズに対してはΠ型フィルタで減衰させ、またCB~FM帯ノイズに対してはインピーダンスが20MHz程度で低くなるバイパスコンデンサを用いて減衰させることでCISPR25-Class5をクリアしようとした結果である。

CISPR25伝達妨害の限度値dB(μV)

サービス / 帯域 周波数 MHz Class5
ピーク 平均値
VW(AM) 0.15 ~ 0.30 70 50
MW(AM) 0.53 ~ 1.8 54 34
SW(AM) 5.9 ~ 6.2 53 33
FM 76 ~ 108 38 18
TV Band I 41 ~ 88 34 24
CB 26 ~ 28 44 24
VHF(FM) 30 ~ 54 44 24
VHF(FM) 68 ~ 87 38 18

入力フィルタによる伝導ノイズ対策例-1入力フィルタによる伝導ノイズ対策例-2入力フィルタによる伝導ノイズ対策例-3
(図6)入力フィルタによる伝導ノイズ対策例

しかし90MHz付近のノイズが残っているため、さらにインピーダンスが100MHz程度で低くなるバイパスコンデンサを追加することで、全ての帯域でClass5をクリアすることができた。
最後に、ノイズ対策に使用するコンデンサの周波数特性は電圧や温度依存、またサイズ、部品メーカーによって異なることがあるので、事前にメーカーに確認するなど注意が必要である。

放熱対策における注意事項

前述のように電子部品の小型化が進むにつれその発熱密度は高くなるため、セット全体の動作を正常に保つことはもちろん、寿命・信頼性を確保することも困難になってくる。
これらの問題を回避するための放熱設計技術は非常に重要なファクターになってきている。
通常、基板実装時のICの熱抵抗θJAと電力消費、もしくはパッケージ上面中心温度TTと熱特性パラメータΨJTがわかれば、ICのおよそのジャンクション(接合部)温度Tjを知ることができる。そのジャンクション温度Tjを、いかにして絶対最大定格以下に抑えることができるかが熱設計の基本となる。
その際に気をつけなければいけないのが、電子部品の熱抵抗の定義である。部品メーカーによって定義、条件が異なる点が熱設計を難しくさせる。JEDEC(半導体規格協会)で規格化されたJESD51シリーズなどもあるが、半導体メーカー各社の解釈の違いにより条件は1対1となっていないことがほとんどである。セット設計に落とし込む際には注意が必要だ。
一般的に半導体メーカーが定義している熱抵抗値はJESD51-2A(305mm角のケースに囲まれた無風の空間にIC 1個を実装した基板を固定した状態)に従って測定されるが、実際のセットの環境とは大きく異なる。
例えば図7の左端の基板条件が電子部品の仕様書に掲載されている条件だとする。

(図7)電子部品の温度上昇と集積度依存
(図7)電子部品の温度上昇と集積度依存

セットでこの部品を複数個使用する場合に中図のように近接した状態で部品を配置すると、部品1個当たりの有効放熱面積は減少する。これは、熱抵抗増加により各部品の温度が上昇することを意味するので注意が必要である。

車載分野で多くのECUなどに使われている電源ICであるが、我々の身の回りにある電子機器にも欠かすことのできない製品である。ロームでは、得意のアナログ技術を活かし、AC/DCコンバータICやDC/DCコンバータICなど一次側から二次側に至るまで、様々な機器に最適な幅広い製品ラインナップを取り揃えている。今後は前述したような様々な顧客要求に配慮したトータルアプリケーションにも注力し、さらなるラインナップ強化を進めていく。

この件についてのお問い合わせ