特集:車載半導体デバイス技術
電気二重層キャパシタ(EDLC)用セルバランスIC

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電気二重層キャパシタ(EDLC)用セルバランスIC

パワーエレクトロニクス分野の進化

近年、車載分野、産業機器や再生可能エネルギー分野を中心にパワーエレクトロニクスに注目が集まっている。特に車載分野においては、排ガス規制に伴う燃費向上が重要な課題と位置付けられ、自動車メーカー各社で新しい技術への研究が進められている。さらなる低燃費車を開発するために、新世代のパワーデバイスを取り入れ電力変換を高効率化するという試みだけではなく、蓄電デバイスとの組み合わせを工夫することによって、システムとして電力消費の高効率化を実現するといった取り組みが検討されている。
また、日本市場を始め、自動車に対する厳しい低燃費目標が掲げられており、より環境に良い自動車開発が進められている。(図1)

(図1)燃費規制のロードマップ
(図1)燃費規制のロードマップ
※出典:(株)富士キメラ総研様『車載電装デバイス&コンポーネンツ総調査2013』(2012年12月4日発刊)をもとに電波新聞社で作成

蓄電デバイスの新しい応用技術

電気自動車やハイブリッド自動車に代表されるように、大容量蓄電デバイスの採用が車載分野でも一般的となりつつある。従来の鉛バッテリーだけではなく、リチウムイオン電池や大容量キャパシタが電装部品化し、応用技術についての研究が活発となってきている。
蓄電デバイスはその種類によって得意、不得意な性質を持ち、それぞれの特長を活かした用途に使われている。例えば、蓄電デバイスとしてまず思い浮かぶものはリチウムイオン電池であろう。スマートフォンやタブレット、ノートパソコンと馴染みのある製品で採用されている。エネルギー密度(単位面積当たりの蓄電量)に優れており、ハイブリッド自動車や電気自動車でのメインバッテリーとしても使われている。(図2)

(図2)蓄電デバイスの分類
(図2)蓄電デバイスの分類

そして、近年、応用で注目されているのが電気二重層キャパシタ(以下、EDLC:Electric Double Layer Capacitor)である。EDLCは、エネルギー密度でリチウムイオン電池に劣るものの、パワー密度(単位時間当たりに扱う電力量)においては非常に優れた特性をもっている。充電・放電効率がよく、瞬間的に大容量の電力を供給が可能である。従来はモバイル機器や小型な電子機器の中に組み込まれ、電源低下時におけるCPUへの負荷供給をバックアップするという用途に使われていた。これまでは数F程度が主流の市場だったが、最近では大容量化が進み、数百Fや数千Fといったタイプの市場が伸びてきている。(図3、4)

(図3)大容量キャパシタ市場規模推移と予測
(図3)大容量キャパシタ市場規模推移と予測
※出典:(株)矢野経済研究所様『大容量キャパシタ市場に関する調査結果2013』(2013年7月3日発表)

(図4)電気二重層キャパシタユニット
(図4)電気二重層キャパシタユニット
※出典:日本ケミコン(株)様

大容量キャパシタは主に、瞬低時における電源のバックアップや再生エネルギー関連装置における電源不安定時のバックアップ、クレーンなどの産業用機器や建設機械でのエネルギー回生で使用される。身近な場面で目にする事が少ない用途だが、そのパワー密度、充放電特性は他の蓄電デバイスに比べて優れているため、そこに着目し近年自動車への採用が始まった。減速エネルギー回生システムという部分で、ブレーキ時に発生したエネルギーを充電効率が良いEDLCへ短時間に蓄電し、車内の電装システムへ電力供給することによって、これまでエンジン発電と鉛電池で担っていた電力をアシストするという構成である。
また、EDLCには、充放電の繰り返しによる性能劣化が少ない、発煙発火性が低い、構成材料に重金属を含まないといった、長寿命、安全、環境面で他の蓄電デバイスにはないアドバンテージも持ち合わせている。
これらの特長を踏まえ、さらにリチウムイオン電池のような2次電池の持つ長所と組み合わせることにより、新しい応用や可能性が検討されている。

EDLCに必要なセルバランス回路

EDLCの1セルあたりの電圧は約2.5Vが一般的である。例えば12V系の電源ラインのバックアップに用いる場合は、5セルや6セルを直列に接続して約12Vを構成する。このとき、各セル電圧を均一にする必要があり、セルバランスを制御する回路が必要となる。各セル電圧が均一となっていないと、いずれかのセルに高電圧がかかってしまい、セル劣化の要因となってしまうからである。EDLC自体が長寿命の特長があるため、性能を十分に引き出すためにはこのようにセル電圧のバランスを取ることが有効である。

EDLC向けセルバランスIC 「BD14000EFV-C」

ロームでは、この度、EDLC用を目的としたセルバランスIC「BD14000EFV-C」を開発した。EDLCのセルバランス機能だけではなく、様々な監視機能を備えている。これにより安全で信頼性に優れたEDLCシステムを構築することができる。
主な特長について詳しく説明していく。

① セルバランス機能を1chipに集約し、高信頼性の確保と部品点数を大幅削減

今回開発したBD14000EFV-Cは、1つのICで4~6セルのEDLCを制御が可能である。シンプルなシャント方式を採用し、外付けの抵抗でシャント電流値を設定できる。セルの電圧が均一化されるように内蔵のMOSスイッチをこのIC自らON / OFFコントロールする。つまり、このICだけという非常にシンプルな構成でセルバランス機能が容易に実現できるのである。(図5)

(図5)BD14000EFV-Cのブロック図
(図5)BD14000EFV-Cのブロック図

例えば、このようなセルバランス回路を、ディスクリート部品で構成した場合、各セル毎に複雑なバランス回路を構成する必要があり、膨大な部品点数が必要となる。安全性を高めるため、過電圧検出回路をつける場合も、その分構成部品が必要となり、面積アップや、管理部品項目の増加、コスト面等負担が増えてしまう。また、多くの部品を使用するため、それぞれの製品のバラツキにより、信頼性を確保することも難しい。
本製品は搭載部品が集約されるだけではなく、IC化することによって高機能化し、セル電圧の仕様が異なる製品が数多くあるセルバランス回路を標準化することができる。これにより管理部品削減に貢献する。(図6)

(図6)1チップ化によりシンプル設計を実現
(図6)1チップ化によりシンプル設計を実現

② 容易な拡張性

EDLCの素子耐圧や用途、充放電頻度、温度環境などによって、セルバランス電圧を最適値に設定することが求められる。BD14000EFV-Cは、VSET0~2の3端子をそれぞれHighかLowに設定することによってセルバランス電圧を2.4V~3.1Vの間で設定する事が可能であり、多種多様なEDLCアプリケーションに対応できる。
検出電圧精度は常温(Ta=25oC)で±1.0%(MAX)で保証されている。-40~105oCの動作温度範囲では±2.0%(MAX)で保証されている。
さらにBD14000EFV-Cを複数直列に接続することもでき、高電圧アプリケーション(バックアップ電源、建設機械など)にも対応可能である。(図7)

(図7)多種多様なEDLCに対応
(図7)多種多様なEDLCに対応

③ 過電圧を2段階でモニターできる安全設計

EDLCセル電圧の過電圧を2段階のレベルでモニターすることが可能である。
VO_OVLO1端子が1段階目の過電圧値を検出し、マイコンへフラグ出力する。2段階目の過電圧値を検出するとVO_OVLO2端子よりフラグが立つ構成となっている。これにより、いずれかのセルに劣化が進行していることをシステムで認識することが可能となり、セルの交換時期を示す目安となる。
過電圧値においては、1段階目はセルバランス電圧+0.15Vもしくは+0.25Vから、2段階目は+0.3Vもしくは+0.5Vからと、2パターンのセルバランス電圧から選ぶことができる。OVLOSEL端子をHighまたは Lowに切り替えて設定することが可能である。

④ セルフチェック機能を内蔵しセルバランスを監視

BD14000EFV-Cはセルフチェック機能という監視機能が内蔵されている。全CHの内蔵シャントスイッチが正常動作し、VO_OKという端子にフラグ出力する。これによりEDLCモジュールの状態として、きちんとセルバランスが取れているかを確認することができる。
このような機能がないセルバランス回路の場合、検査工程の中で全CHのセルバランスが正常動作されているかどうかを1セルずつ確認する必要がある。この機能を使うことで、VO_OK端子の出力を認識し、セルバランスが正常動作しているかどうかを確認ができる。検査時間、コストが削減されるというメリットがあり特許を出願中である。

⑤ ヒステリシスレスにより無駄な消費電流の削減

セルバランス用の検出回路では、ヒステリシスレス型のコンパレータを採用している。(図8)

(図8)ヒステリシス機能有無の電流消費比較
(図8)ヒステリシス機能有無の電流消費比較

ヒステリシス型の場合、検出電圧より解除電圧が低くなり、検出解除時にセル電圧が検出電圧より低くなってもセルバランススイッチがONしたままのため、不要なシャント電流消費が発生してしまう。一方、ヒステリシスレス型の場合、検出電圧と解除電圧が同じであり、検出解除時にセル電圧が検出電圧より低くなるとセルバランススイッチがOFFし、不要なシャント電流消費が発生しない。以上により、ヒステリシスレス型コンパレータを使用することで高効率なセルバランスを実現している。

⑥ 車載品質グレード

BD14000EFV-Cは国際品質規格であるAEC-Q100に準拠した仕様となっている。車載関連のアプリケーションにも安心して採用できる。

まとめ

このようにBD14000EFV-CはEDLCのセルバランス回路への要求を1chip化することで、安心で信頼性に優れたEDLCシステムを実現した。さらに、設計負担の軽減、開発期間の短縮にも貢献する。ロームは長年培ってきたアナログ設計技術を用いて環境により良い蓄電デバイスの応用拡大を促進していく。

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