【掲載記事】特集:MEMS
ロームの圧電MEMS技術によるイノベーションファンダリシステム

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ロームの圧電MEMSによるイノベーションファンダリシステム

はじめに

圧電素子は、素子自体に力がかかった場合に電圧を発生する性質と、逆に電圧をかけた場合に力を発生させる性質を持っている。こうした性質を用いて、産業用途インクジェットプリンタのヘッドやカメラのオートフォーカスなど様々な電子機器に組み込まれている。
一方、微小電気機械システムMEMS(Micro electrical machine system)は、半導体微細加工技術で作製したミクロン(1mmの1/1000)レベルの大きさの電子回路とメカを組み合わせたもので、代表的なものとして加速度センサーやジャイロセンサーなどに使われている技術である。これに薄膜圧電素子を形成することができれば、MEMS駆動部の出力を処理するコントローラーを極めて小さくできるため、様々な電子機器の小型化、高機能化、低コスト化を実現する事ができる。
さらに、圧電素子は待機時にはほとんど電力を必要としないため、今後急速な普及が見込まれているウエアラブル、インフラマーケットなどのセンサデバイスにおいては、その省エネ性が注目されている。
このように、圧電MEMSは小型化、高機能化、省エネ性を必要とする次世代アプリケーションに必須となる技術であるが、デバイス作製において、高圧電特性を持つ薄膜成膜や微細な圧電体の加工、成形は難しいとされている(写真1)。またMEMS駆動部の加工では、高精度が必要とされ、数々の技術を展開して様々なアプリケーションに対応させるためには、多くの知見やノウハウが必要であり、参入障壁が高い状況にある。
こうした中、ロームは永年メモリーで培ってきた強誘電体技術やMEMS微細化、実装技術をフル活用することで、市場要望に応じた製品の開発・製造をウエハー投入から実装まで一貫して行うことが可能である。特に企画開発段階から顧客と共同で開発することで、最適なプロセスを開発し、様々なマーケットおよびアプリケーション向けに圧電MEMSを実現するイノベーションファンダリシステム構築に成功した。

圧電MEMSデバイス例
写真1:圧電MEMSデバイス例

薄膜ピエゾ

圧電MEMSの性能を決める重要な要素として、優れた圧電特性と強誘電体特性が挙げられる。ロームでは、これらの特性に優れたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)という材料の薄膜化に着目し、開発を行っている。PZT薄膜に求められる性能はデバイスによって異なっており、各ニーズに最適な特性をもつ薄膜を作り出す必要がある。
例えば、電気を機械的変形に変換させ動作させるアクチュエータ分野では、高圧電特性のPZT薄膜が求められている(図1-a)。一方、センサー分野では検知したい対象の、例えば温度・圧力などの変化に対して感度良く反応することが望ましいとされている(図1-b)。これらの要求に対し、我々は、独自技術開発により様々なデバイスに適合したPZT特性を得るための成膜技術の確立に成功した。
アクチュエータ分野に適した電圧に対する変形量が大きいPZT薄膜としては、理論上、結晶方向を(001)配向に向ければ良いとされている。しかしながら、半導体プロセスとの整合性から下部電極としてプラチナ(Pt)を使うのが一般的で、この配向が(111)であるため、その上のPZT薄膜を安定的に(001)配向させるのは困難であるとされてきた。これに対し、ロームは下部電極上に結晶制御の元となるシード層を挿入し、結晶方向を(001)に制御したPZT薄膜を安定的に成膜する技術を確立した。これにより、従来のPZTよりも同一電圧において大きな変形量を得ることができるようになった(図2)。
一方、センサー分野に適したPZT薄膜としては、温度・圧力などの変化に対して電荷が大きく変化するものが望まれる。PZT薄膜は、強誘電性を有するため、電圧印加0V時も電荷を保持する。この0V時の電荷(残留分極と呼ぶ)が大きいほど、温度・圧力などの変化に対して大きく電荷が変化し、センサーとしての感度が優れていることになる。ロームは、PZT薄膜中のZrとTiの組成比を最適化することにより、残留分極値を向上させ、センサーに適したPZT薄膜を得ることに成功した(図3)。

アクチュエータとセンサの一例
図1. アクチュエータとセンサの一例

PZT薄膜の配向制御による変位量の改善
図2. PZT薄膜の配向制御による変位量の改善

PZT薄膜の組成制御による分極特性の改善
図3. PZT薄膜の組成制御による分極特性の改善

薄膜ピエゾの成膜

圧電MEMSのファンダリでは、前述したPZT特性に加えて量産のための生産技術が重要な鍵となる。一般的にMEMSデバイスでは機械的な動きを利用するため、作成する構造体の機械的強度が均一であることが要求される。MEMSのデザインルールは、半導体集積回路と比較して緩く数ミクロン以上であるが、膜厚や寸法には高い精度が求められる。膜厚では5%以下、寸法で1%(20ミクロンの構造体を±0.2ミクロンの誤差で作る)を要求される場合があり、膜厚や加工寸法の統計的管理が必要となる。
特に、PZT成膜技術は、①PZT膜がミクロンオーダーと非常に厚いこと②PZT特性が成膜状態に大きく作用させてしまうことから、非常に難易度が高いとされている。
ロームでは、PZT成膜方法としてゾルゲル法を用いている。ゾルゲル法とは、ウエハーにゾルゲル液をスピンコートし、ホットプレート上で乾燥させ、赤外線加熱炉で焼成させて薄膜を形成する方法である。先に述べたように、圧電MEMSで必要なPZT膜厚は、ミクロンオーダーと厚いため繰り返し何十層も重ねることで、膜形成を行っている。ゾルゲル法の利点は、耐圧が高く信頼性の高い圧電PZT膜を、高い再現性と面内均一性で形成できる点にある。
欠点としては、パーティクル(異物)による成膜への影響が挙げられる。このため、パーティクルに関して、一層ごとのパーティクル数管理が重要で、最終的な薄膜の出来に大きな影響を及ぼすことになる。特に、ゾルゲル液は一般的なレジストとは異なり特殊であるため、通常のスピンコーターよりも注意が必要である。例えば、ノズル先端やコーターカップに付着したゾルゲル液は、自然乾燥により固形化しパーティクル発生の要因となってしまう。
また、パーティクルが生じやすいウェハーエッジ(側面~外周部)の洗浄方法も問題となる場合が多く、一般的なレジスト塗布でも重要な、装置内の気流制御、コーターカップ内で生じるミストの制御も重要となる。この対策として、今までの装置開発・改良技術、半導体プロセス技術を応用し、ノズル材質と形状の最適化や洗浄機構を装置に導入し改良することによりパーティクル数を大幅に低減することができた。
また、圧電特性の測定は、カンチレバー(片持ち梁)構造やメンブレン構造(背面Siのエッチング除去)への加工が必要で、面内分布の測定自体が難しいことから、PZT特性のウエハー間ばらつきやウエハー面内ばらつきに関しては課題があった。そこで、ウエハー状態で非破壊で圧電特性を測定出来る装置を導入し調査を実施した。結果、乾燥や焼成などの熱処理時の温度分布がPZT圧電特性のバラツキの原因であることを突き止めた。そこで、ホットプレートや赤外線加熱炉の面内分布の抑制と精密な温度制御により、PZT特性のバラツキ抑制を実現できた。これらにより、優れたPZT特性をもつ薄膜を、安定的に作り出す技術を確立することができた。

薄膜ピエゾ成膜装置
写真2:薄膜ピエゾ成膜装置

まとめ

半導体産業はこれまでシリコン材料を中心に発展してきたが、ここにきてSiCやGaNに代表される化合物半導体、有機材料など多くの魅力ある異種材料が中心材料としての地位に登場してきている。そのためプロセス技術としても、できるだけ違う元素が入らないように工夫してきた工程に対して、多くの材料が入ってきたとしても、それがコントロール下に置けるような拡散防止技術が重要で、必要不可欠な要素となっている。
特にMEMS分野では、圧電性、焦電性、磁気特性などの特有な特性を求めていくため、今後ますますユニークな材料が開発されてくる事は必須で、それらの材料とCMOSラインとのマッチングをどう図っていくかが、今後の発展の鍵になると見ている。
また、一般的に圧電材料は還元作用に弱く、通常のCMOS工程を通過してくる間に劣化が進行し、最終工程では圧電性が低下して使用できない事が多い。
そのため、バリア層を設けたり、還元反応を起こりにくくしたりと、工夫する事が必要で、拡散を防止すると共に、圧電材料内部にも何も入れない構造や入ることができない工程条件がマストとなる。
ロームでは、LSIの技術をベースに、化合物材料を使用するLEDやLDのオプティカルデバイスのノウハウ、そして抵抗器やコンデンサなどセラミックベースのディスクリートのノウハウなどを生かすことで、これら異種材料のコントロールノウハウを高め、MEMS分野の新規デバイス展開を強化していく。

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