特集:モバイル機器用部品・デバイス技術
時代の最先端を走るワイヤレス給電技術

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時代の最先端を走るワイヤレス給電技術

概要

電源をコンセントから取るという今までの常識から、ユーザーに電源を意識させない電気製品を使ってもらう時代がやってきている。
電気製品から電源コードを無くすことができるワイヤレス給電技術は、スマートフォン、モバイル機器向けなど身近なところから実用化が進んでいる。今までにも電動歯ブラシ、電気シェーバやコードレス電話などでワイヤレス給電技術は使われている。しかし、専用の送電器が必要で各社別々の仕様となってしまい、ワイヤレス給電技術の普及という意味では課題があり、今後の爆発的な普及を目指すには仕様の標準化が必須であった。
ロームは2013年3月にワイヤレス給電の標準化団体であるWireless Power Consortium(以下WPC)の正規メンバーとなり、ロームのアナログ・パワー技術、とりわけ電源技術を生かし標準化団体へ仕様提案と規格策定を行っていく。今回は標準規格、給電方式の原理説明、WPC向けローム製品、技術の紹介を行う。

標準規格WPC Qi(チー)規格 ローパワー Ver1.1 (~5W)

最新のWPC Qi規格 ローパワー Ver1.1はワイヤレス給電の国際標準規格として2012年4月に策定された。2010年、最初に策定されたローパワー Ver1.0との違いとして、Ver1.1では安全性の向上を目指して、新たにFOD(異物検出機能)の搭載が義務付けられている。
ロームはWPC加盟の約190社の中から構成される25社の正規メンバーとして加盟しており、普及が進んでいるワイヤレス給電規格「Qi」の策定の段階から協議に参加している。そのQi規格はワイヤレス給電の市場拡大に伴う対応電力範囲の拡大に動き始めている。
Qi規格の拡張に対して、ロームはグループ内でワイヤレス給電に必要なコア技術を全て保有していることを活かし、送信用の制御ICと市場拡大に伴うミドルパワー(5W~)製品の開発も行っている。なお、ミドルパワー製品もローパワー製品との互換は取ることが可能である(図1)。

ローパワー(5W以下)との互換について ファラデーの電磁誘導則
図1.ローパワー(5W以下)との互換について 図2.ファラデーの電磁誘導則

給電方式はシンプルで高効率な電磁誘導方式

WPC Qi規格で用いられている、電磁誘導方式のワイヤレス給電の基本原理は、送電用コイルと受電用コイルに共通に貫く磁束によって誘導起電力を生じるファラデーの電磁誘導則に基づいている(図2)。送電用コイルに交流電流を流すとコイル周囲に磁界が発生し、両コイルを貫く磁束により受電用コイルに誘電起電力が発生する。理想的なトランスを用いた場合、結合の度合いを示す結合係数kは1である。Qi規格の場合0.8~0.9となる。
この原理のみで構成される電磁誘導方式は、その他方式(磁界共鳴方式、電界結合方式、マイクロ波送電方式など)に比べ、回路構成がシンプルかつ高効率なシステムが実現可能である。

WPC Qi規格向けローム製品・技術

<ローパワー向け製品、技術>
ロームは今年9月、スマートフォンやモバイル機器向けのワイヤレス給電受信用制御IC「BD57011GWL」を開発した(図3)。BD57011GWLは、ロームとしてワイヤレス給電を構築する制御ICの第一弾となる製品であり、先述のワイヤレス給電の規格で注目されているWPCの最新Qi規格ローパワー Ver1.1に準拠している。
BD57011GWLは、整流回路ブロックとQiコントローラとの1chipのICとなっている。1chipでありながら低発熱を実現し、従来品と比較した場合では給電時の温度上昇を約75%に低減可能で、実装面積削減と低発熱を両立させることができる。さらに、業界初の位置ずれ検知機能の搭載により、位置ずれ時の充電効率低下を検知できるため、高効率動作に貢献する。

BD57011GWLを含むシステムブロック図
図3.BD57011GWLを含むシステムブロック図

1.課題であった発熱を低減
スマートフォンなどに5Wクラスの電力をワイヤレスで送電するには大きな発熱が生じることが大きな課題となっていた。ロームは最先端のBiC-DMOSプロセスを採用してMOSFETのオン抵抗を可能な限り低くすることに成功しており、1chipでありながら低発熱を実現し、実装面積と低発熱の両立を実現した。スマートフォン向けワイヤレス給電ICでは少しでも低発熱のICが求められ、今回ロームでは低発熱版受信ICの開発を行った。従来品と比較した場合では、給電時の温度上昇を約75%に低減できる(図4)。また、後述のミドルパワー向け受信用制御ICではさらなる温度上昇の低減を可能にしている。

温度比較データ
図4.温度比較データ

2.業界初の位置ずれ検知機能で充電が高効率化
端末の充電時、端末が給電装置の中心に設置されていなければ、充電効率は著しく低下する。 位置ずれ検知機能は、端末の位置ずれに対してアラームを出力することができ、充電の高効率化に貢献できる。

3.非常に高い安全性を誇るFOD (Foreign Object Detection/異物検出機能)
FODは最新のQi規格から搭載を義務付けられており、金属の物体が送受信機間に存在する場合に金属の発熱による筐体の変形や火傷の発生を未然に防ぐため、安全性が飛躍的に向上する。
FODの実現には送信側と受信側の複雑な合わせこみの技術が必要だが、ロームでは、自社のアナログ技術とグループ会社ラピスセミコンタクタのデジタル技術を結集することで実現を可能にした。
実際には、受信側で電力損失の計算を行う際に、受信セットごとに異なる損失誤差の微調整を外付け抵抗で設定できるため、非常にフレキシブルかつ高精度のFODを実現している。

<ミドルパワー向け製品、技術>
現在WPCではミドルパワー(15W以下)の規格を策定しており、ローパワー(5W以下)でカバーできない大画面スマートフォンやタブレット、ウルトラブックに対応させるためパワーを拡張させている。
パワーだけでなくFOD機能といった安全面に対する仕様も、ローパワーに比べて改善させたリリースを予定している。ロームでは規格リリースとともにセットメーカーにサンプル評価できる体制を整えるべくミドルパワー向けの送受信用IC開発に取り組んでいる(図5)。

1.ミドルパワー向けワイヤレス給電送信用制御IC
ミドルパワー向けワイヤレス給電送信用制御ICは、コイル駆動用インバータ、Qi 規格の通信パケット用のコントローラ及び復調回路、TCXOバッファ、I2C インターフェース、GPIOから構成される。汎用マイコンと組み合わせて使用する事で、Qi 準拠のワイヤレス給電における送信コントローラとして動作する。このデバイス はWPC に基づく15W までのモバイルアプリケーションに適用できる。

2.ミドルパワー向けワイヤレス給電受信用制御IC
ミドルパワー向けワイヤレス給電受信用制御ICは、低抵抗のFETで構成される同期整流回路、Qi規格の通信パケットを生成するコントローラ、可変のチャージャ出力、AM変調によりトランスミッタへ通信を行うためのオープンドレイン出力、FSK復調回路から構成される。このデバイスはQi ミドルパワー規格Ver.0.9に基づく10Wのモバイルアプリケーションに適用できる。

ミドルパワー向けICシステムブロック図
図5.ミドルパワー向けICシステムブロック図

3.更なる低発熱に挑戦
最新Qi規格ローパワー Ver1.1に準拠するBD57011GWL同様に、最先端のBiC-DMOSプロセスを採用してMOSFETのオン抵抗を可能な限り低くすることに加えて、パワーパッケージを採用し低発熱を実現する。従来品と比較した場合では、給電時の温度上昇を約55%に低減できる。

まとめ

ワイヤレス給電技術は、充電時の電源コードを不要にし、機器コネクタの防水性・防塵性の向上を見込めるため、モバイル機器市場のみに限らず産業機器、車載市場などに広がりを見せていく。またWPCのように標準化されたシステムを用いることで一つの給電装置を様々な端末に使用することが可能となってくる。
今後WPCでは120Wまでのミドルパワー2(仮)の規格やキッチン向けの大電力(2KW以下)の規格策定も行っていく。ワイヤレス給電分野においてロームは、アナログ・パワー技術、とりわけ電源技術を生かしユーザーや消費者にとって非常に便利であり、究極的には電源という概念を全く意識させずに電気製品を使ってもらえるようなモノ作りを今後も手掛けていく。

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