次世代パワー半導体の最新市場動向

ポイント | パワー半導体の応用製品動向 | パワー・デバイスの主役、MOSとIGBT | パワー半導体はSiからSiCやGaNへ |
HVやEVで期待が集まるSiC | 高周波対応が可能なGaN | コラム

省エネ革命の主要デバイスとして注目される次世代パワー半導体 Point
南川 明
アイサプライ・ジャパン 副社長、主席アナリスト/ジャパンリサーチ

 2008年の原油価格高騰により、省エネルギー・新エネルギーの開発機運が世界で一気に高まり、CO2排出量削減や脱石油を目指すようになった。この結果、ガソリン自動車に代わる電気自動車(EV)の開発が精力的に進められている。さらに、太陽光や風力といった自然エネルギーの利用技術が省エネ社会のキー・テクノロジーといわれており、米国をはじめとする先進各国は"グリーン・ニューディール"政策を積極的に進めようとしている。このような新エネルギー産業の育成は、米国で500万人、中国で1000万人、ドイツでは200万人といわれる新たな雇用創出を、もう一つの目的としている。

 これまで、多くの電子機器はより多くの電力を消費することで高性能や多機能を実現する方向に進化してきた。またパソコン(PC)や携帯電話機、AV機器などに搭載される半導体において、パワー半導体の占める割合はせいぜい10%だった。一方、エネルギー産業に使われる機器では、半導体に占めるパワー半導体の割合が50%を超える場合が多い。つまり、これまでの電子機器で常識だった半導体コンテンツの急変が起こり始めているといえる。

 ここでは広義のパワー半導体をパワー・マネジメント半導体と定義する。そこには、IGBT(insulated gate bipolar transistor)、MOSFET、パワー・バイポーラ・トランジスタ(PBT)、パワー・ダイオードなどのパワー個別半導体に加え、リニア・レギュレータ、スイッチング・レギュレータなどの電源回路、さらにはこれらを制御するためのパワー・マネジメント用ロジックLSIなどが含まれる。

 このようなパワー・マネジメント半導体の市場規模は、2008年に265億米ドルだったとみている(図1)。2013年には368億米ドルに達すると予想する。その中でMOSFETとIGBTはそれぞれ、2008年は52億米ドルと21億米ドルであり、2013年は86億米ドルと27億米ドルに増えるだろう。

図1 パワー・マネジメント向け半導体の2008年市場規模

図1 パワー・マネジメント向け半導体の2008年市場規模
2008年の市場規模は265億米ドルだった。アイサプライ・ジャパンのデータ。

パワー半導体の応用製品動向

 パワー半導体は、家電、コンピュータ、自動車、鉄道などあらゆる機器に幅広く使われている。これらの応用機器の普及拡大、さらにこれらの機器へのパワー半導体の搭載比率拡大が期待できるため、今後のパワー半導体は順調な市場成長が見込める。

 多くの家電には、直流電力を交流電力に変換するインバータが搭載されており、そのインバータには必ずといっていいほどパワー半導体が使われている。例えばエアコンは、コンプレッサ(圧縮器)に組み込まれている交流モータの回転数を制御して温度を調節しているが、回転数を制御するためには、周波数が50Hzもしくは60Hzに固定されている家庭用商用電力を任意の周波数に変換させる必要がある。インバータによって任意の周波数に変換させることによって初めて、きめ細かい温度調節や省エネが可能になる。またエアコンは家庭のエネルギー消費の主要因の一つであり、この意味でエアコンのインバータ化は大きな省エネ効果やCO2排出量削減効果を期待できる。しかも、日本ではエアコンへのインバータ搭載が当たり前になっているが、欧米や中国ではインバータ・エアコンの本格普及はこれからなのだ(図2)。

図2 世界のエアコン消費台数とインバータ比率

図2 世界のエアコン消費台数とインバータ比率
日本ではエアコンへのインバータ搭載が100%なのに対し、欧米や中国ではインバータ・エアコンの本格普及はこれからである。各種資料からアイサプラ イ・ジャパンが作成。

 パワー半導体を使うインバータはきめ細かい周波数制御に欠かせないため、エアコンだけではなく洗濯機、蛍光灯、IH(induction heating)調理器などにも使われるようになっている。洗濯機では、衣類の種類や汚れ具合に合わせて洗濯槽の動き方を制御したり省エネを実現したりしている。蛍光灯では、蛍光管へ数十kHzという高周波数の電力の供給することで、蛍光灯のちらつきを減らすとともに発光効率の改善や調光が可能になる。IH調理器でも、商用周波数の電力を高周波数の電力に変換するためにインバータを搭載している。

 このほか、直流電源が必要な家電製品も多く、これらには商用の交流電力を直流電力に変換するための整流回路(AC-DCコンバータ)や、家電に搭載された各種電子部品に適した電圧・電流を供給するレギュレータ(DC-DCコンバータ)などが使われている。

 コンピュータ関連では、インバータが2次電池とセットで無停電電源に使われている。無停電電源はコンピュータやインフラ装置など、電圧変動や遮断が許されない機器で使われる。また自動車も、パワー半導体を多く使うアプリケーションである。

 現在の自動車では、エンジン出力を最適に制御するために燃料供給や吸気システム、バルブの開閉、点火時期などを電子制御しており、これらを動かすためのモータやアクチュエータを各種パワー半導体で制御している。また、パワー・ウインドーや各種車載電装機器の制御にもパワー半導体が使われている。そして、ハイブリッド自動車や電気自動車のモータ制御用にインバータが採用されており需要は急拡大している。

 このほかにも、電車用モータ制御のための超高耐圧パワー素子、太陽電池や風力発電用のインバータなどがある。日本には直流モータで駆動される電車と交流モータで駆動される電車が存在し、新幹線は交流モータ駆動である。ここではチョッパ制御やインバータ制御が必要になる。また、太陽光発電では直流電力、風力発電では不安定な交流電力が発生するが、インバータによって安定した周波数の交流に変換して送電する。一つの太陽電池の電圧はせいぜい0.5V程度なので、それをいくつも直列につないでインバータを使って交流100Vに変換している。

パワー・デバイスの主役、MOSとIGBT

 パワー半導体は前述のようにPBT、MOSFET、IGBTなどに分けられる。このうちPBTは古い製品であり、現在はMOSFETとIGBTが主役になっている。このうちMOSFETは、耐圧が40V程度までの低・中耐圧向けと、それ以上の高耐圧向けの二つに分けられる。

 低・中耐圧MOSFETのアプリケーションをみると、コンピュータ向けが多く、民生機器、通信機器がこれに続く(図3)。主に2 次電池で駆動する携帯電子機器のスイッチング電源に使われている。この市場は、携帯電子機器の台数成長とともに市場拡大が約束されており、安定した需要拡大を見込むことができる。  一方、高耐圧MOSFET市場は民生機器の割合が高く、続いて有線通信、コンピュータなどである(図4)。民生機器の比率が高いのは、液晶テレビやPDPテレビにおいてドライバLSIの駆動用回路と電源制御回路の両方にパワーMOSFETが使われているためである。この市場も、2008年からの供給過剰と世界的な景気後退で2009年は落ち込んだが、2010年以降は順調に成長していくだろう。

図3 低・中耐圧MOSFET市場予測

図3 低・中耐圧MOSFET市場予測
コンピュータ向けが最も多い。続いて、民生機器、通信機器が多い。アイサプライ・ジャパンのデータ。

図4 高耐圧MOSFET市場予測

図4 高耐圧MOSFET市場予測
民生機器の割合が高い。続いて有線通信、コンピュータが多い。アイサプライ・ジャパンのデータ。

 次にIGBTは、高耐圧、大電流と高周波数特性を兼ね備え、第1世代品の量産が始まってから約20年が経過した。電力増幅用として、ストロボ発光制御から電車の動力制御まで幅広く使用されている。特にエアコンや洗濯機といった身近な家電製品にIGBTは搭載されている。エアコンではコンプレッサの制御回路、洗濯機ではモータ駆動用の制御回路、炊飯器では電力制御回路、電子レンジではマグネトロン制御回路でIGBTを使う。IGBTを搭載することで、制御回路がインバータ化でき、省エネや幅広い電力制御が可能になる。

 IGBT市場は、産業機器向け、車載機器向け、民生機器向けの3 分野に大きく分けられる(図5)。産業機器向けで大きいのは、電車や産業ロボット、工作機械のモータ制御に使われるインバータ用途である。車載機器向けでも、ハイブリッド自動車の駆動用モータとカー・エアコンのコンプレッサ用モータを制御するためのインバータ用途が多い。民生機器ではデジタル・カメラのストロボ向けとエアコンのインバータ用途が主流となっている。IGBT市場は、2009年に大幅な落ち込みを見せたが、2010年には急回復しており、2013年には2008年を大きく上回る市場へ成長するとみている。

図5 IGBT市場予測

図5 IGBT市場予測
産業機器向け、車載機器向け、民生機器向けが3大分野である。アイサプライ・ジャパンのデータ。

 市場拡大の背景には、ハイブリッド自動車や電気自動車におけるIGBTの需要拡大がある。現在、自動車メーカーはハイブリッド自動車の生産増強計画を競って発表している。従来のガソリン自動車を一気にハイブリッド自動車に置き換えようという計画だ。これには各国政府の補助金も付くことから需要拡大に拍車がかかることが期待できる。また、中国では100万円以下の電気自動車を町工場のような企業が多数発表しており、電気自動車の技術進歩からも目が離せない。IGBTメーカーは過去最高の受注というところが目白押しであり、当面の受注をこなしきれない状況になっている。

パワー半導体はSiからSiCやGaNへ

 世界的なグリーン・ニューディール政策などによってパワー半導体の市場拡大が続いている。その種類はサイリスタ、GTO(gate turn-off thyristor)、バイポーラ・トランジスタ(bipolar transistor)などからMOSFET(metal oxide siliconfield effect transistor)、IGBTへと進展し、応用分野も家電製品からOA、産業、医療、電気自動車、鉄道、電力インフラに至る幅広い分野へと拡大してきた。現在、パワー半導体が扱う電力の範囲は数Wのスイッチング電源からGW級の直流送電までに達している。身の回りのさまざまな電子機器にパワー半導体が使われているのである。

 しかし、従来のSiを使ったパワー半導体は、Siの物性で決まる理論的な性能限界に近づいており、飛躍的な性能向上を期待することが困難になってきた。そこでSi C、GaN、ダイヤモンドなどの材料を使った次世代型パワー半導体に注目が集まるようになっている。例えば、電力変換の際のロスを減らすためにパワーMOSFETの低抵抗化が求められているが、現在主流のSi-MOSFETでは大幅な低抵抗化が難しい。そこでバンドギャップが広い(ワイドギャップ)半導体であるSiCを使った低損失パワーMOSFETの開発が進む。

 SiCやGaNは、バンドギャップがSiの約3倍、破壊電界強度が10倍以上という優れた特性を持っている。また高温動作(SiCでは650℃動作の報告がある)、高い熱伝導度(Si CはCu 並み)、大きな飽和電子ドリフト速度などの特徴もある。この結果、SiCやGaNを使えばパワー半導体のオン抵抗を下げ、電力変換回路の電力損失を大幅に削減することが可能である。

 例えば、日本では総電力消費の約50%がモータで消費されているとから、各種モータやエアコンなどでインバータ化やインバータの高効率化を推進すると、日本だけで原子力発電所4基分(CO2排出量1000万トン)の省エネ効果を期待できるとの試算がある。

HVやEVで期待が集まるSiC

 このうち、SiCパワー半導体はSiパワー半導体に比べて電力損失を70~ 90%削減できると予想されている。さらにSiCは、1kV以上の高耐圧に耐えられることから電力、鉄道、産業用途に適している。特にハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)のモータ駆動用インバータでは1kV程度の高耐圧が必要なことから、SiCパワー半導体に大きな期待が集まっている。これらの意味でSiCパワー半導体は省エネ・デバイスとして重点的に研究開発を進めるべき分野といえる。

 SiCパワー半導体の開発状況は、ウエハー技術とプロセス技術の両面ともかなり進んできた。ウエハーに関しては、エピタキシャル成長の基盤技術が確立し、50~ 75mm径のウエハーが市販されている。マイクロパイプ欠陥が1個/cm2レベルまで減少してきた。ただし、転位欠陥は特別な条件でしか数百個/cm2レベルが得られない状態である。通常の状態では数千から1万個/cm2程度であり、大幅な減少が急務である。プロセス技術はデバイス製造可能な水準に達しつつある。海外メーカーを中心に複数企業が電流4~12A、電圧300~ 1200V系のSiC-SBD(schottkybarrier diode)を市販しており、既に電源回路に組み込まれるようになった。

 残る問題はウエハー価格がSiの数十倍と高価なことだ。現在は米Cree, Inc.がSiCウエハー供給をほぼ独占しており、低価格化のメドは立っていない。HOYAや新日鉄マテリアルズなどがSiCウエハーの供給を始めたところであり、ロームも自社開発に成功したようである。今後の低価格化に期待が集まっている。いくつかの半導体メーカーは数年後にSiCパワーMOSFETの量産開始を検討しており、これらのメーカーは2015年ごろにはSiCウエハーの価格がSiウエハーの数倍にまで下がってくると予測している。

高周波対応が可能なGaN

 一方GaNは、耐圧は200~ 1kV程度しかないものの、高周波対応が可能という特徴がある。このことから、デジタル家電の電源回路などの用途に適していると考えられている。

 GaNの課題は大型のバルク結晶を得にくいため、素子形成をすべてエピタキシャル成長膜に依らねばならないことである。このため、SiC以上に製造コストが高くなりやすい。プロセス技術に関しては、ヘテロエピタキシャル結晶成長技術を使ってサファイアやSiC、Si上に比較的良質なGaN薄膜を形成できるようになってきた。これを使ってAlあるいはInを添加したヘテロ接合が形成でき、AlGaN/GaN構造の自発分極効果を利用するによって非常に高いシート・キャリヤ密度を得ることができる。この結果、横型HEMT構造で1m ~ 3mΩと極めて低いオン抵抗を得られ、350Vで150Aという大電流動作が報告されるようになってきた。

 以上のようにSiCとGaNはそれぞれ特徴や用途が違うため、それぞれの応用分野や市場で成長が期待できる。ただしSiも急激ではないが性能向上が続くため、2015年くらいまではSiが中心のままだろう。

 現状ではSiCとGaNのウエハー価格が高く、周辺技術が追い付いていない。特に高温動作はSiにはないSiCやGaNの特徴だが、半導体チップ自体は高温に耐えられるが、半田やパッケージが高温に耐えられないという課題がある。これらの課題を克服してSiにはないSiCやGaNの特徴を必要とするアプリケーションへの適用が始まれば、SiCやGaNを使ったパワー半導体の市場が大きく開くことになるだろう。

(根津 禎=日経エレクトロニクス)

コラム

動き出す日本のSiCビジネスついにダイオードを量産

 次世代パワー半導体の一つであるSiC関連のビジネスが日本でも大きく動き始めた。産官学を挙げて、同分野における日本の主導権獲得に向けた動きが活発化しているのである。

 日本企業の中で特に積極的なのがロームである。同社は日本企業として初めて、SiCパワー素子の量産に踏み切った。具体的には、耐圧600Vで、出力電流が10AのSiC製ショットキー・バリア・ダイオード(SBD)の量産出荷を2010年4月下旬から始めた。今までは、ドイツInfineon Technologies AGや伊仏合弁STMicroelectronics社、米Cree、Inc.といった欧米企業がSiC製パワー素子を製品化していた。

 ローム以外の日本企業、例えば新日本無線は2010 年10月ごろに、三菱電機は2011年度中にSiC製SBDを量産する考え。このほか、東芝や富士電機デバイステクノロジーなどが、SiC製パワー素子の実用化を目指した研究開発を急ピッチで進めている。

 SiC製パワー素子を製造する上で欠かせないSi C基板についても、新日本製鉄が2009 年4月から口径4インチのSiC基板のサンプル出荷を始めている。ロームは同年夏にドイツのSiC基板メーカーSiCrystal社を買収し、基板の安定調達にメドを付けつつある。

 企業だけでなく、経済産業省もSiC 事業の支援策を次々と打ち出している。例えば、2010 年度から「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」を開始する。5年間に及ぶプロジェクトで、初年度予算は20 億円である。このほか、SiCに関連する日本の企業や大学などが集結するための枠組みとして「Si Cアライアンス」を発足させた。