
実は、もともとのお客様の要求は、当時の技術の応用で実現する抵抗器だった。ところが、試作段階まで進んだ時点で、突然のスペック変更が発生した。それが、当時の技術では不可能に近い内容の、“高機能化”と“小型化”の両立!
─ 真意を確かめようと赴いた顧客先で、感じたことは?
「製品の仕様を変えることは、お客様にとっても重大な決断であるはず。担当者に直接会って、新しいスペックを未来のスタンダードにしていきたいという熱い想いがあることがわかったんです。そして、その主力商品の回路に、ロームの抵抗器がどうしても必要だと。世界の一流企業が、私たちに期待している!!…内心、興奮しましたよ。方法ですか?想像もつかないスペックだったので、まずは“従来の抵抗器から、発想を転換しなくては”という思いはありました。詳しくは言えませんが、まったく違う製品の技術がヒントになっています」。

お客様先での性能テスト用として、はじめは数10〜数100pcsのサンプルで良かったものが、お客様のセットも量産に近づくと10,000単位、量産になると1,000,000単位の製品が必要となる。社外秘だという量産の手法は、ローム社内でさえ誰も予想しない方法だった。
─ まったく新しい方法を実行するための社内体制について教えてください。
「提案した方法は、当時はかなり斬新な手法だったため、『その方法で本当にできるの?』と最初は周囲も本気にしていなかった。そこで、協力会社やいろんな業者さんをまわり、機械や道具をお借りし、実際に試作してみせて、はじめて社内の人間も『ああ!なるほど』と。その後、今回考えついた手法をベースに、生産技術・製造技術のスタッフたちとともに量産機を開発。さらに、生産拠点であるフィリピン工場から、現地での立ち上げを短期間かつスムーズに行えるよう、事前に担当者を日本に呼び綿密な研修を行いました。もちろん僕もフィリピン工場に行き、現地で工場スタッフの教育にも力を入れました。

当然ですが、“量産”は一人では不可能なこと。機械を立ち上げる人、スタッフの指導をする人、工場で働く人。みんなの協力で、すべてがつながってラインがスーッと動き始める。大幅なスペック変更、サンプルづくり、性能のテスト、量産ラインの立ち上げ・・・顧客訪問から開発完了までの間にいろんな出来事があったけれど、ラインが動いた瞬間にはじめて『・・・できた!!』という気持ちを味わいました」。
塚口の胸にある社員証の中には、いつもロームの企業目的が書かれたメモが入っている。 『われわれは、つねに品質を第一とする。いかなる困難があろうとも、良い商品を国の内外へ永続かつ大量に供給し、文化の進歩向上に貢献することを目的とする』
「これは、開発者として好きな言葉です。“品質第一”─ それは、企業と製品の信頼に関わることであり、まず何より先に優先されるべきものです。そしてさらに今回の製品のように、お客様から要求されたスペックと品質を満たすだけじゃだめなんです。それらをクリアしながら、お客様の要求量・要求納期に合わせて、遅れることなくしっかりお届けできる体制を作る。これが大事だと思っています。特に私たちが開発している抵抗器という部品は、電子部品の中でも最も大量に使用される部品の一つであり、性能は地味でシンプルですが、あらゆる電子部品になくてはならない存在といっても過言ではありません。
常に考えているのは、いかに効率よくお客様の要求量に応えるラインをつくるかということ。大量生産され、実際に“人や社会の役に立った瞬間”が、もっとも開発の喜びを感じられるときだと思っていますから」。

先輩たちもやったことのない新工法。「この部分で不具合が起こるのではないか」など、想定される問題点が挙げられる中、開発担当者は言った。「一緒に、世界に羽ばたく製品を作りたい!」。その情熱に打たれ、「意外な方法」を採用するところから、新たなチャレンジが始まった。しかも、通常は1年〜2年かかる製造ラインの立ち上げを3ヶ月で行なう…信じられないハードルの中で、工夫しながら、全力を注いでいく。
─ 短納期で量産するために、製造ラインで工夫したポイントは?
「フィリピン工場の担当者を、日本に招いて研修を行いました。私自身も初めての経験。研修に関してはこの新商品の超!大量生産体制を早急に立ち上げられるよう、短期間で製品・設備概要について教育を実施し、工程に導入することが目的でした。現地の人が来て、英語と日本語が飛び交う中、急ピッチで教育が行なわれました。結果として、担当者らのレベルが非常に高く、すぐに教育事項を習得し、機械搬入から1ヶ月という短納期で、全ての設備をスムーズに立ち上げることができました。
さらに、現存の製品と“若干”製法が異なるPMR03を、いかに工程を複雑化せずに、新しい製造ラインとして差別化するかというポイントは、もっとも知恵をしぼったところです。たとえば、この機械までは工程が同じだけど、次の機械では異なる…などの部分で、作業効率を極限まで上げるため、その差異をできるだけシンプルにしました。実際のレイアウト検証は、試運転なしにシミュレーションしていきましたが、実際立ち上げ後、レイアウトの効率は、ほぼ計算どおりです! 」
工場監査があることは知っていたが、予想外のスケジュールである。スタッフは、だいたい1年後をめどに監査があると思い込んでいた…。工場のレイアウト、歩留まり率、安全管理、雇用体制など、すべての事項に対して厳しくチェックされるという監査をどう乗り越えたのか。
─ 「監査が2週間後にある」と聞いた時、どう思いましたか?
「・・・正直、かなりびっくりしましたね。ラインを立ち上げたばかりで、しかも監査まで時間がない。短時間で完璧にしなければなりませんでしたから。塚口さんは、『よしこい!』という感じ。それを聞いて『…やるしかない…』と腹をくくりました(笑)。スタッフが集まって、2週間はかなりツメて作業をしました。量産標準書や製品管理体制・作業フローについて、抜けは無かったか?間違いが無かったか?一つひとつ念入りにチェックし、不確定の要素を確実につぶしていく…。いよいよの監査の時には、営業の田口さんも監査のスタッフに対し、製造者の目線で熱心に説明してくれて、頼りになりました。最後に『エクセレント!』という言葉を聞いたときは、喜ぶよりも先に、責任を果たせてほっとしたというのが大きかったですね。」
海外工場移設後、すぐに帰国。いつもの椅子に座り、ふとオフィスを見渡すと、いつも壁にかけられている全世界の「生産進捗表」にフィリピン工場の実績が…。PMR03生産データがアップデートされているのを見たときに「やっと量産化できた…!」と初めて実感し、嬉しさを噛み締める。
─ たくさんのハードルのある中、最後までやりきれたのはなぜだと思いますか?
河野さんの想いを聞かせてください
「上司や同じ部署の先輩の存在、関わった全ての人の『全面バックアップ』があったから、やりきれたと思う。これほどの重要な仕事を任せてもらえたことに感動し、感謝の気持ちから、絶対に達成してやろう!という意欲が湧きました。
歩留まり改善でも4〜5人(塚口さんや現地スタッフも含めて)くらいで寄り合って検証していきました。何かあるたびに工場の人がどどどっと集まってきて打合せが始まる。国籍も、部署も、何もかも超えて、みんなが新しいラインづくりにまっすぐだったと思います。一人ではなく、みんなで仕事をして、量産化できたことに誇りを持っています。
特に、塚口さんの口から『感動やぁ〜っ!』という言葉が何度も発せられたのが印象的。100回以上は聞いたくらい(笑)。そんな塚口さんの『感動』が伝染し、新しいものづくりの楽しさを実感できました。今後、再びタッグを組むのが今から楽しみです。」


お客様が要求するスペックは、高機能かつ小型化。サンプルを作るだけでも大変なことだったが、さらに同じクオリティーで大量生産できることが求められる。それをクリアしてはじめて、最終の「発注」が決定するのだ。つまりこの時点が製品開発のゴールではなく、むしろお客様にとっては「スタートラインに辿り着いただけ」、なのである。
最終的にお客様の手元で製品化される“ゴール”まで辿り着けた理由には、2人のキーマンの存在があった。それが、日欧の営業担当者である。
─ サンプルの開発に向けて、営業として、どんなところに注力しましたか?
日本側海外営業・田口: 「ヨーロッパのお客様の窓口は、現地営業担当の“Tim”。日本での営業担当は“田口”。この二人は、常にヨーロッパのお客様情報と日本国内の開発情報を共有し、開発・製造とやりとりを進めていくんです。営業は情報をつなぐだけではありません。それぞれの状況を把握したうえで、ベストな段取りを考える必要があるんですよね。

日本側海外営業の私は、いわば常に開発者と苦楽をともにしている存在。だから、一つ作るだけでも大変なサンプル品を要求分納品したときに、『追加で倍の数がほしい』と言われ、思わず開発者の気持ちになって青ざめる場面もありましたね・・・(笑)。でも逆に、うれしさを感じることも多かったです。とくに完成したサンプル品を納品したときのお客様の反応が、『まさかできるとは!』という驚きだったときには、正直、鳥肌がたちました。さらに『他の会社から出たものはだめだった』ということも聞いて、誇らしい気持ちでいっぱいになりましたね」
[ 塚口からひと言 ]
「『調子はどうですか?』って声が聞こえたら、田口が顔をのぞかせているということが多かったですね。田口は開発現場に細かな気配り、目配りをしてくれるタイプ。開発段階でピンチになったときも、こちらの状況をつねに近い距離で把握してくれていたので、うまく切り抜けることができました。サンプルを出したときの反応も、ただ結果報告だけでなく、お客様がどう喜んでいるか、表情や言葉などをちゃんと伝えてくれるんです。モチベーションも上がりますよね。だからこそ、サンプル納品時に思った以上の要求が来た、と聞いたときも、『田口のために、何とかやってやろう!』という気持ちになれました」
刻々と変わる状況。だからこそ2人の営業担当者は、「情報を密に共有すること」を何より大切にしていた。そして時には先回りしたり、開発への納期のプレッシャーなどを自分で受け止め、製品の開発・製造に集中できる環境を整えていくのだ。そんな姿を見ている開発メンバーは、営業担当者へ次第に絶大な信頼を寄せていく…。
─ お客様と社内、双方の最新情報を持っている立場として、もっとも苦労・工夫した点は?
現地営業・Tim: 「クライアントと日本との、毎日の情報共有を心がけたおかげで、スムーズにプロジェクトが進行したと思います。とにかくどんな局面でも、つねに最新情報を持っていることを何より大切にしました。田口にはかなり頻繁に電話していたね。毎日、開発サイドの最新情報をしつこく聞きまくっていたという感じ(笑)。
ベストなエンジニア(塚口)と営業(田口)が日本にいたので、開発・設計において、難しいポイントはない、と信じていました」
日本側海外営業・田口: 「サンプルが用意できないと、お客様のラインが止まってしまう。たとえ1oほどの小さな部品だとしても、なければ製品が成立しない。そうするとお客様にとっては大変な損害になってしまいます。お客様の開発スケジュールと社内の開発状況の両方を睨みながら、内心ひやひやしたことも・・・。その調整には苦労しましたね。お客様のニーズを開発現場にできるだけ詳しく伝え、コミュニケーションを活発にすることで乗り切りました。
他社に作れないものを作れるというのは会社として大きな誇りでしたが、同時に責任も大きくのしかかってきます。お客様が重視されるのは、やはり『安定供給』。最終製品の販売が地球規模になりつつあるので、グローバルにタイムリーに、対応できることというのも重視されているんです。 量産体制が確立して、超大量の製品が納品され、それが製品となって世界中で販売される・・・。完成した製品が、世界中のいろんな人に使われることを想像すると、この上ない喜び、達成感を感じますね」
機械を搬入し、工場を立ち上げて、ラインを動かし始める。ところが、監査の結果次第で、結局発注してもらえないというケースもありうる。プロジェクトの総仕上げとも言える監査は、メンバー全員がもっとも緊張する瞬間である。新工場に対してオッケーが出るのか?!質問の準備に奔走する。
─ 監査には、どんな対応を心がけましたか?
日本側海外営業・田口: 「営業から見ると、監査は開発プロジェクトの総仕上げにあたる。お客様からさまざまな質問が厳しく問われることを想定していました。勤務体制や災害時の対応策、人材の教育レベルなどのチェック項目があるほか、ローカルの従業員に話を聞いて直接質問する場合もあるんです。
監査までの体制を可能な限り整えるために、営業担当(日本/現地)だけでなく、開発・製造など、全プロジェクトメンバーが世界中から工場へと集結。それまではパートごとに各メンバーがバトンをつないで進めてきたけれど、メンバーが全員顔を合わせるのは、その日が初めて。・・・みんなの努力を無駄にするわけにはいかない。そんな気持ちでプロジェクトメンバーの代表として、開発・製造と同じ目線で説明するように心がけました。その熱意が伝わったのか、30分で終わる予定だった監査が、結局3時間に!お客様もチェックしたり質問することに熱がこもってしまったんだと思います。
お客様の監査役は、最初は難しい、厳しい顔をしていたけれど、最後の言葉は『excellent!! 』。ほっとした瞬間でした。
―――工場での監査が終わって、お客様の監査役と食事をしているときに言われた言葉があるんです。『会社にとって人は財産だというけれど、まさに今回のプロジェクトメンバーは、あなたたちの会社の“宝物”だと思う。本当にありがとう』って。プロジェクト始動から、ライン立ち上げ・監査までずっと走り続けてきたけれど、最後にじんとする一言でしたね。うれしかったです、自分のことのように!」

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